欧州小売業における自然災害への備え
近年、欧米でも、自然災害が激甚化・頻発化している。
米国では、サイクロン、暴風雨、竜巻、洪水、熱波・干ばつ、寒波・豪雪、森林火災などによる気象・気候災害のうち、経済損失が10億ドルを超える「ビリオンダラー災害」の発生頻度が1980年以降急激に高まっている。2025年には過去3番目に多い23件を記録し、2026年も6月末までの上半期に12件が発生した。
西欧では2026年夏、度重なる熱波に見舞われ、6月と7月の月平均気温がいずれも観測史上最高を記録した。高温で乾燥した状態が続いた結果、フランス、スペイン、イタリアなどで大規模な森林火災が相次いで発生し、EU域内の焼失面積は9月時点で65万ヘクタール超と、過去20年平均の約2倍にのぼっている。
米アマゾン・ドット・コム (Amazon.com) は、自然災害の発災時に被災地へ迅速かつ効率的に支援物資を届けるグローバルな災害支援プログラム「ディザスター・リリーフ・ハブ (Disaster Relief Hub)」を展開している。
2021年6月に米アトランタで初の拠点を開設して以降、災害が多発する地域や主要都市の近くに戦略的に配置してきた。現在、米国・カナダ・メキシコ・ドイツ・豪州・インド・日本の7カ国で計12カ所を運営する。
これらの拠点はいずれも既存のフルフィルメントセンター内に設置されている。被災地で支援にあたる団体からのフィードバックや過去の救援活動で得られたデータをもとに、医療用品や掃除用具、浄水システム、毛布、タープなど、拠点ごとにニーズの高い支援物資を備蓄し、発災後2日以内に被災地へ配送できる体制を整えている。
森林火災が頻発する北米では、森林火災対応に特化した拠点も設置している。2026年7月には、その2カ所目となる拠点を、カナダ西部アルバータ州エドモントンに開設した。
この拠点では、18万品目以上の備蓄品のうちの半数以上が、N95マスクや空気清浄機、頑丈な手袋、ゴム長靴、ふるいなど、森林火災に対応した物資で占められている。
独レーヴェグループ (REWE Group) 傘下のレーヴェグループ・オーストリア (REWE Group Austria、以下レーヴェ) は、オーストリア民間防衛協会 (ÖZSV) と連携し、災害への備えをオーストリア国民の日常生活に根付かせるための啓発活動に取り組んでいる。
その代表的な事例が、2年以上かけて開発された新たな防災アプリ「ZIVA」だ。災害リスクの分析、防災対策のパーソナライズ提案、リアルタイム警報を単一のプラットフォームに統合している点で、欧州で先進的なアプリと評価されている。
具体的には、荒天や火災、停電など、安全に関わる危険をプッシュ通知で知らせるほか、自宅の住所を入力すると、その場所における洪水や地震などの災害リスクを確認できる。また、世帯構成に応じた備蓄品チェックリストが提示され、レーヴェ傘下の店舗での普段の買い物のなかで、必要な備蓄品をスムーズに買い揃えることができる。
レーヴェは、オーストリア最大級の雇用主として、2026年5月からのテスト運用に参加し、従業員の一部に「ZIVA」を提供した。
同社では、このアプリを、自社の事業継続や危機管理体制を補完し、従業員の防災対応能力の向上を支援するものと位置づけている。
米ウォルマート (Walmart) は、先進的なテクノロジーを活用し、異常気象など災害への備えを強化している。
災害への備えと対応で中枢の役割を担っているのが「グローバルセキュリティオペレーションセンター (GSOC)」だ。
年中無休24時間体制で、世界中の気象やリスク、オペレーションを監視。国立ハリケーンセンター (NHC) やストーム予報センター (SPC) の予報、過去の災害データなど、社内外のデータを活用し、従業員やオペレーション、サプライチェーンに影響を及ぼすおそれのあるリスク事象を特定・評価・管理している。
サプライチェーンを担う現場では、天気予報を踏まえて、「ハリケーンの到来前に飲料水や電池など生活必需品の需要が急増したらどうなるか」、「特定の地域へ在庫を移動させる必要が生じたらどうなるか」といった仮定を立て、予測AIや機械学習 (ML) を用いて過去の気象パターンやリアルタイムのデータを分析し、天候が在庫状況や輸送ルート、ECでの顧客への配送にどのような影響を与えるかを事前に把握している。
また、高度なモデリングツールの活用により、施設の閉鎖や輸送の遅延、需要の急変に対して物流網がどのように反応するかも検証している。
たとえば、輸送部門では、デジタルツインを活用して物流網を仮想空間上で再現し、負荷がかかった状況下においてサプライチェーン全体で商品がどのように移動するのかをシミュレーションする。これにより、必要となるキャパシティを評価し、代替する物流施設と店舗との連携を最適化し、商品をスムーズに供給するための事前の調整が可能となっている。
デンマークの小売最大手のサリンググループ (Sailing Group) は、異常気象や安全保障情勢の不透明化、サイバー攻撃リスクの高まりに対応し、非常時に生活必需品を安定供給する機能を備えた「エマージェンシーストア (beredskabasbutik)」の整備を進めている。
人口の8割が50㎞圏内でアクセスできるよう、2027年末までにデンマーク全土で51カ所に設置する計画だ。
「エマージェンシーストア」には、傘下のハイパーマーケット (HM) ビルカ (Bilka) 全17店舗に加え、食品スーパー (SM) フーテックス (Føtex) 32店舗、ディスカウントストア (DS) ネットー (Netto) 2店舗が指定された。
これらの店舗では、電力や外部との通信が途絶えても、少なくとも2日間は営業を継続できる体制を整え、店舗や近隣の倉庫で、飲料水や缶詰など、デンマークの緊急事態管理庁 (DEMA) が推奨する物資を緊急備蓄として確保する。
2026年6月には、パイロットとして、南部リーベのフーテックス、ヴァイレのビルカ、ボーンホルム島レネのネットーの計3店舗で、高性能な非常用電源システムを初めて導入した。
これにより、店内の冷蔵庫や照明、コンピュータシステムなど、電力に依存する設備の稼働を維持でき、大規模停電の発生時でも、通常通りの営業を継続できる。
今後、「エマージェンシーストア」に指定された他の店舗でも、この新たな非常用電源システムの導入を進める方針だ。
またこれに先立ち、2025年10月には、非常時に備えた決済ソリューションも強化し、「エマージェンシーストア」を含む傘下の全店舗で、ネットワーク接続がなくてもカード決済やモバイル決済が可能となっている。