小売大手のグローバル戦略
ドイツ発のハードディスカウントストア (HDS) アルディ・ズード (ALDI SÜD) は、ドイツ南西部、英国、米国、豪州、イタリアなど、11カ国で約7600店舗を展開している。
米国と英国は、近年事業規模が著しく拡大しているエリアだ。
米国の店舗数は2570店を超えた。本国のドイツを上回って最も多く、店舗数ベースで米国第3位の食品小売チェーンに成長している。
「2028年末までの5年間で800店を出店し、3200店体制を目指す」という成長戦略の下、2024年に約120店を出店したのに続き、2025年にも225店以上を出店する計画だ。北東部と中西部で市場プレゼンスをさらに強化しながら、西部では南カリフォルニアやフェニックスでも店舗を増やしていく。
英国では1060店を展開し、1500店体制に向けて出店を加速させている。2026年からの2年間で16億ポンド (3184億円:1ポンド=199円で換算) を投資し、さらに80店を出店する計画だ。
英国での市場シェアは10.8%で (2025年8月時点)、業界3位のアズダ (Asda) に迫っている。
仏小売最大手カルフール (Carrefour) では、2026年度までの中期経営計画「カルフール2026」の半ばを過ぎ、グローバル規模で事業ポートフォリオの見直しをすすめている。
2025年7月には、67.4%の株式を保有するブラジルの子会社カルフール・ブラジル (Grupo Carrefour Brasil) の少数株主から発行済株式をすべて取得し、サンパウロ証券取引所の上場を廃止した。
カルフール・ブラジルの完全子会社化によって、より機敏なマネジメントを遂行し、事業執行に集中する方針だ。
一方、2025年7月には、傘下のカルフール・イタリア (Carrefour Italia) が運営するイタリア事業をイタリアの食品飲料大手ニュープリンセス (NewPrinces) に売却すると発表した。
2024年度には経常利益が6700万ユーロ (116億5800万円:1ユーロ=174円で換算) の赤字に陥ったイタリア事業から撤退し、欧州とラテンアメリカの主要マーケットに改めて重点を置く。
オランダを本拠とする非食品のディスカウントストア (DS) のアクション (Action) は、欧州本土で出店を加速させ、急成長を遂げている。
2023年度に303店、2024年度に352店を出店したのに続き、2025年度も約370店を出店する計画だ。店舗数は2025年6月末時点で3043店になった。
国別ではフランスが859店で最も多く、ドイツ (585店)、オランダ (418店) の順でこれに次ぐ (2024年度末時点)。2025年9月には14カ国目となるルーマニアにも進出した。
店舗網の拡大に伴って、売上高も伸長し続けている。2024年度の売上高は対前年比21.7%増の138億ユーロ (2兆4012億円)。売上高成長率は4年連続で20%を超えた。
米小売最大手ウォルマート (Walmart) は、子会社のウォルマート・インターナショナル (Walmart International) を通じて、カナダ、メキシコ、チリ、インドなど、米国外の18カ国で事業を展開してきた。
2024年度の売上高は1146億ドル (約17兆円:1ドル=148円で換算) で、ウォルマート全体の約18%を占めている。
店舗数が最も多いのはメキシコだ。「Bodega Aurrera (ボデガ・アウレラ)」や「Walmart Supercenter (ウォルマート・スーパーセンター)」など、メキシコ全32州で3191店を展開する。
2025年3月には、メキシコでの店舗網のさらなる拡大に向けて、60億ドル (8880億円) を投資する計画を発表した。
404店を展開するカナダでも、2025年からの5年間で65億カナダドル (6955億円:1カナダドル=107円で換算) を投資し、数十店舗を出店する計画だ。
2025年5月にオンタリオ州ミシサガ市ポートクレジットでスーパーセンター (SuC) を出店したのを皮切りに、まずは2027年末までにSuCを計5店舗出店する。
チリには、現地の食品小売企業D&Sを買収して2009年に参入した。「Lider (リーデル)」、「aCuenta (アクエンタ)」などの屋号で計400店を運営している。
カナダと同様に、今後5年間で13億ドル (1924億円) を投資し、70店舗を出店する計画だ。
南アフリカ共和国では、2025年中に「ウォルマート」の屋号の店舗を初めて開業する。
これに先立ち、2025年4月には、サプライヤー向けのイベント「グロース・サミット」を南アフリカ共和国で初めて開催。アフリカ諸国の中小のサプライヤーともネットワークを構築しつつある。
ドイツを本拠として世界31カ国で約1万2600店を運営するハードディスカウントストア (HDS) のリドル (LIDL) は、欧州を中心に事業を拡大させている。
英国では、1000店体制に向けて出店をすすめている。2025年度には5億ポンド (995億円) を投資し、40店舗以上を出店する計画だ。
また、店舗網の拡大に合わせて、ロンドンの物流施設の増床とイングランド北部リーズでの物流施設の新設にも計4億3500万ポンド (865億6500万円) を投資している。
1600店以上を展開するフランスでは、2025年7月に仏食品小売大手オーシャン (Auchan) の19店の譲受について独占的な交渉を開始した。同年9月には規制当局の承認も得、2025年末までには一連の手続が完了する見通しだ。
スペインでは、店舗数が700店に達した。2024年度の売上高は69億5200万ユーロ (約1兆2096億円) で、スペインの食品小売業界で第3位のシェアを占める。
2024年度に30店を出店したのに続き、2025年度にも約40店を新規に出店し、店舗網のさらなる拡大を図っている。
ポルトガルでは2025年4月、プライベートブランド (PB) の商品開発のためのイノベーション協業センター「Lidlab (リドラボ)」を開設した。
首都リスボンとポルトの店舗に併設され、消費者を交えて、フォーカスグループや試食、官能評価などを行っている。