小売業における小型フォーマットの進化
小型フォーマットで積極的に出店し、消費者の支持を広げているのが、自然食品やオーガニック食材に強みを持つ米食品スーパー(SM)のスプラウツ・ファーマーズマーケット(Sprouts Farmers Market、以下スプラウツ)だ。
2022年以降、従来の3万平方フィート(約2787㎡)超から約2万3000平方フィート(約2136㎡)に縮小した新しい店舗フォーマットで出店を加速させてきた。
2024年度には33店舗を新規出店し、売上高は対前期比13%増の77億ドル(1兆1165億円:1ドル=145円で換算)と2ケタ伸長している。
位置情報データを分析した米調査会社プレイサー(Placer.ai)のレポートによると、スプラウツの小型フォーマットの店舗の月間来店客数は2022年1月から2024年5月までに49.5%増加した。その伸び率はスプラウツの全店ベース(21.3%)や全米のSM(22.9%)を大きく上回っている。
仏カルフール(Carrefour)は、フランス国有鉄道(SNCF)傘下で駅舎の管理・開発を担うギャレ&コネクション(Gares & Connexions)、仏旅行小売大手ラガルデール・トラベル・リテール(Lagardère Travel Retail)と提携し、2030年までにフランス国内の鉄道駅で小型店を150店出店する計画をすすめている。
これは、乗降客の利便性の向上と地域活性化を目的とするギャレ&コネクションのイニシアチブ「Place de la Gare」(プラス・デ・ラ・ギャレ:駅前広場)の一環として実施される新たなローカルサービスのひとつだ。
店舗面積は80~400㎡。食料品を中心に取り扱い、オンラインで注文した商品を受け取るピックアップポイントも併設される。
カルフールは、近隣にSMがない鉄道駅を出店候補として、まずは2025年末までにその1号店をオープンする。将来的には、サステナビリティに配慮した商品を豊富に品揃えする新業態「ポタジェ・シティ(Potager City)」や小型無人店舗「アピ(Api)」も試験的に出店する見込みだ。
北欧スウェーデン発の家具量販店イケア(IKEA)は2025年5月、英ロンドン中心部オックスフォード・ストリートで都市型小型店をオープンした。
リノベーションされた7階建てビルの3フロアで構成され、売場面積は5800㎡だ。ロンドンの生活者の特性やニーズに合わせて商品をセレクトした3つの編集売場を1階で展開するほか、イケアの商品でコーディネイトされた部屋を再現した「ルームセット」や本国スウェーデンの料理などが楽しめる「スウェディッシュ・デリ」など、イケアでおなじみのコーナーも設置されている。
店内では合わせて約6000アイテムを展示。これらはすべてオンラインで注文でき、そのうち約3500アイテムは店頭で購入して持ち帰ることもできる。
イケアは米アリゾナ州フェニックスでも、約7万5000平方フィート(約6967㎡)の小型フォーマットの店舗を2026年初めに開業する計画だ。
米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com、以下アマゾン)傘下の食品スーパー(SM)ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)は、米国の都市圏で、新たな都市型小型店「ホールフーズ・マーケット・デイリーショップ(Whole Foods Market Daily Shop)」の出店をすすめている。
2024年9月に米ニューヨーク市マンハッタン区アッパー・イースト・サイドで1号店をオープンして以降、その店舗数は同市内で3店舗になった。
店舗面積は既存店の約4分の1の8500~1万平方フィート(約789~929㎡)とコンパクトだ。多忙な都会のライフスタイルに対応し、素早く便利に買い物できるように設計されている。
売場では、生鮮食品から総菜、ベーカリー、日配品、冷凍食品、飲料、酒類、日用品、プライベートブランド(PB)「365 by Whole Foods Market(365・バイ・ホールフーズ・マーケット)」の商品まで幅広く品揃えするほか、地元ニューヨークの人気餃子ブランド「ミミチェンズ(Mimi Cheng’s)」など、米国北東部のサプライヤー約100社から仕入れた400品目以上の地場商品も取り扱っている。
この新しい小型フォーマットによる拠点の拡大は、ホールフーズ・マーケットの成長戦略の柱のひとつだ。人口が密集する都市部により多くの店舗を配置することで、既存顧客とのつながりを深めるとともに、新たな客層にもリーチを広げられる。
ホールフーズ・マーケットでは、近々、同市ブルックリン区やニュージャージー州ホーボーケンでも「ホールフーズ・マーケット・デイリーショップ」の出店を予定している。
ベルギーの食品小売大手コルホイト・グループ(Colruyt Group)は2024年10月、これまでの都市型小型店「オーケイ・コンパクト(Okay Compact)」を「オーケイ・シティ(Okay City)」に刷新した。
2012年から展開してきた「オーケイ・コンパクト」の既存店20店をすべて「オーケイ・シティ」に転換するとともに、新規出店もすすめ、2026年までに30店舗体制を目指している。
「オーケイ・シティ」は、徒歩や自転車でもアクセスしやすい立地、最適に絞り込まれた品揃え、手ごろな価格、週7日営業という都市部の消費者ニーズに合わせた店づくりが特徴だ。
約400㎡のコンパクトなスペースに、サンドウィッチなどの即食商材や飲料のほか、野菜、果物、総菜、チーズ、焼きたてパン、日用品も含めて、約3000品目が品揃えされている。
また、価格を重視する都市部の消費者行動を踏まえ、商圏内で最安値を保証。競合店の値付けや特売を常にモニタリングしながら、売価を適宜調整している。
コルホイト・グループはベルギー全体で30%超のシェアを握るものの、都市部に限れば、そのシェアはまだ20%程度にとどまっている。
今後、首都ブリュッセルや北部アントワープ、北西部ヘントといった主要都市で出店を加速させ、都市部でのシェアを30%以上に引き上げていく方針だ。